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第1節 脳血管障害(脳卒中)のリハビリテーション

1. 脳血管障害の概念

2. 脳血管障害の分類

(1) 脳出血

(2) くも膜下出血

(3) 脳血栓症

(4) 脳塞栓症

(5) 一過性脳虚血発作(TIA)

24時間以内に回復、内頸動脈由来、椎骨動脈由来のものがある。

3. 脳血管障害の症状

(1) 運動障害

  1. 発症直後は弛緩性麻痺、次第に痙性麻痺。

    この時期、腱反射の亢進、病的反射の出現をみる。

  2. 運動障害の状態

(2) 感覚障害

  1. 体性感覚の障害 正常、鈍麻~脱失、過敏まで様々
  2. 視床痛:麻痺側の強い痛み
  3. 肩手症候群:上肢の強い痛み
  4. 同名半盲:左右の目の一側視野の欠如

(3) 言語障害

  1. 構音障害 仮性球麻痺、球麻痺、小脳病変等
  2. 失語症 ブローカー失語、ウェルニッケ失語等

(4) 高次脳機能障害

失行症、失認症、失語症、注意障害、記憶障害、認知症等

(5) 摂食嚥下障害

(6) 意識障害

程度は様々、ジャパン・コーマ・スケールで判定

(7) 心理面の障害

うつ症状、環境不適応、認知症等

(8) 膀胱直腸障害

排尿や排便のコントロールができなくなる。

(9) 二次的合併症

  1. 廃用性症候群
  2. 関節拘縮:肘関節屈曲、尖足等
  3. 肩手症候群:上肢の疼痛、腫脹、関節拘縮、反射性交感性ジステロフィー
  4. 心肺機能低下、筋力・持久力低下、起立性低血圧等

4. 脳血管障害の評価

(1) 全身状態の評価

意識障害の有無、バイタルサインのチェック等

(2) 運動機能の評価

a. ブルンストロームステージの原則
ステージ可能な運動筋緊張
随意運動なし弛緩
随意運動なし
連合反応による共同運動
痙性発現
共同運動を随意的に起こせる 痙性最大
共同運動から逸脱した運動(分離運動) 痙性やや弱まる
運動の分離が進む 痙性減少
運動が自由に可能
協調運動正常
正常
b. 上肢
ステージ可能な運動
随意運動なし
随意運動なし
連合反応による共同運動
共同運動を随意的に起こせる。
  1. 屈筋共同運動(弓矢の弓を引くポーズ)
    • 肩甲帯 挙上・後退
    • 肩関節 屈曲・外転・外旋
    • 肘関節 屈曲
    • 前腕 回外
    • 手関節 掌屈
    • 手指 屈曲
  2. 伸筋共同運動(変身の構え)
    • 肩甲帯 前方突出
    • 肩関節 伸展・内転・内旋
    • 肘関節 伸展
    • 前腕 回内
    • 手関節 背屈
    • 手指 伸展
分離運動
  1. 手を腰の後方にまわす
  2. 腕を前方水平位へ(前へならえ)
  3. 肘90゜屈曲位で前腕回内・回外
運動の分離が進む
  1. 腕を横水平位へ
  2. 腕を頭上まで挙上
  3. 肘伸展位で回内・回外
運動が自由に可能
協調運動正常
c.下肢
ステージ可能な運動
随意運動なし
下肢の随意運動がわずかに可能
共同運動を随意的に起こせる
  1. 屈筋共同運動
    • 股関節 屈曲・外転・外旋
    • 膝関節 屈曲
    • 足関節 背屈・内反
    • 足趾 伸展(背屈)
  2. 伸筋共同運動
    • 股関節 伸展・内転・内旋
    • 膝関節 伸展
    • 足関節 底屈・内反
    • 足趾 屈曲(底屈)
座位や立位で股・膝・足関節の屈曲が可能
共同運動から逸脱した運動(分離運動)
  1. 座位で足を床上に滑らせながら膝屈曲90°以上可能
  2. 座位でかかとを床につけたまま足関節の背屈が可能
運動の分離が進む
  1. 立位で股関節を伸展したまま、膝関節の屈曲が可能
  2. 立位で患側足部を少し前方に出し、膝関節を伸展したまま、足関節の背屈が可
  1. 立位で股関節の外転が骨盤挙上による外転角度以上に可能。
  2. 座位で内側・外側のハムストンリングスの交互収縮により、下腿の内旋・外旋が可能

(3) その他の評価

運動失調の有無、関節可動域、感覚・知覚、高次脳機能、知的機能の検査等

5. リスク管理

しばしば見られるリスク
  1. 全身状態の悪化:基礎疾患(糖尿病、心疾患等)に注意
  2. 起立性低血圧
  3. 肩関節亜脱臼
  4. 異所性骨化:暴力的な可関節可動域訓練により内出血を繰り返した結果
  5. 歩行訓練時の転倒:施術社は麻痺側から介助すること
アンダーソン・土肥の基準(訓練の中止基準)
Ⅰ.運動を行わないほうがよい場合
  1. 安静時脈拍数120/分以上
  2. 拡張期血圧120以上
  3. 収縮期血圧200以上
  4. 労作性狭心症を現在有するもの
  5. 新鮮心筋梗塞1ヶ月以内のもの
  6. うっ血性心不全の所見の明らかなもの
  7. 心房細動以外の著しい不整脈
  8. 運動前すでに動悸、息切れのあるもの
Ⅱ.途中で運動を中止する場合
  1. 運動中、中等度の呼吸困難、めまい、嘔気、狭心痛などが出現した場合
  2. 運動中、脈拍が140/分を越えた場合
  3. 運動中、1分間10個以上の期外収縮が出現するか、または頻脈性不整脈(心房細動、上室性または心室性頻脈など)あるいは徐脈が出現した場合
  4. 運動中、収縮期血圧40mmHg以上または拡張期血圧20mmHg以上上昇した場合
 
Ⅲ.次の場合は運動を一時中止し、回復を待って再開する
  1. 脈拍数が運動時の30%を超えた場合、ただし、2分間の安静で10%以下にもどらぬ場合は、以後の運動は中止するかまたは極めて軽労作のものにきりかえる
  2. 脈拍数が120/分を越えた場合
  3. 1分間に10回以下の期外収縮が出現した場合
  4. 軽い動悸、息切れを訴えた場合

6. 急性期のリハビリテーション

(1) ポジショニング

拘縮(マン・ウエルニッケ拘縮)、廃用性症候群の予防のため良肢位を保持する。

背臥位での良肢位
  1. マットレスは硬めのものとする。柔らか過ぎると股関節の屈曲拘縮を誘発する。
  2. 枕は低めが良い。
  3. 両肩、両骨盤は水平を保つ。
  4. 患側の肩の下に小クッション(砂袋、タオルなど)を入れて肩の落ち込みを防ぐ。
  5. 肘から前腕の下にクッションを入れて腕を高挙する。
  6. 手関節背屈、手指は軽度屈曲位とする。
  7. 股関節内外旋中間位。
  8. 膝関節軽度屈曲位、ただし、下肢屈曲パターンの強い場合は伸展位。
  9. 足関節は底背屈0度。

(2) 運動療法の開始基準

病態により判断

(3) 急性期のリハビリテーション

  1. ポジショニング
  2. 体位変換:2時間毎
  3. 関節可動域訓練:主に他動的
  4. その他(セルフケア訓練、座位保持、車椅子操作等)

7. 回復期のリハビリテーション

30分の座位保持が可能になれば開始、発症後2,3週間~6ヶ月までの間

(1) 二次的合併症

肩関節亜脱臼、 肩手症候群、 深部静脈血栓症、 痙性による変形等の予防

(2) 回復期の機能障害

各種評価を行い、機能障害をチェックしておく

(3) 回復期の活動制限

それぞれのADLの可否だけでなく、どのように行っているか、できない場合、その理由について等も評価する必要がある。

(4) 回復期のリハビリテーション治療

8. 維持期のリハビリテーション

退院後、自宅や施設において、機能維持を目的とした取り組みを行う。