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第2節 脊髄損傷のリハビリテーション

1. 脊髄損傷の概念

(1) 原因

  1. 自動車事故や労働災害などによる外傷
  2. 炎症、腫瘍など脊髄の疾病

(2) 病型

  1. 胸髄損傷 → 対麻痺 -- 両下肢が麻痺
  2. 頸髄損傷 → 四肢麻痺 -- 両上下肢が麻痺
  3. その他 -- ブラウンセカール症侯群、脊髄空洞症など
  1. 完全麻痺 -- 完全に麻痺して動かない
  2. 不完全麻痺 -- ある程度運動可能

(3) 損傷レベルと日常生活動作(ADL)

外傷性の脊髄損傷の好発部位

  1. 第5~6頸椎部
  2. 第12胸腰椎部
損傷レベル重症度・ADL移動手段
C4
  • 頸部筋のコントロール
  • 首をすくめる動作(僧帽筋)が可能
  • 要介助レベル
電動車椅子(顎コントロール)
C5
  • 肩の弱い動き(肩甲帯の筋)
  • 肘の弱い屈曲(上腕二頭筋)
  • BFOによる上肢動作(食事動作など)
  • 要介助レベル
※BFO(上肢保持用装具)
BFOによる電動車椅子操作
C6
  • 肩の強い外転・外旋,弱い内転・内旋
  • 肘の強い屈曲
  • 手関節背屈
  • 機能的把持副子によるつまみ動作 肘ロックによる弱いプッシュアップ
  • ADL可能のレベル
ノブつき車椅子駆動
C7
  • プッシュアップ
  • 体幹の安定
  • 手関節の弱い屈曲
C8 弱いつまみ・握り動作が可能 通常の車いす操作
Th1 上肢は正常 自由な車椅子動作可能
Th6 体幹装具・長下肢装具と松葉杖による小振り歩行
Th12
  • 強力な腹筋による車椅子動作
  • 長下肢装具と松葉杖による大振り歩行
L2 股関節の屈曲可能 長下肢装具とロフストランド杖による振り出し歩行
L3 股関節の屈曲と膝の伸展が可能 短下肢装具と杖による歩行が実用レベル
S1
  • 足関節と殿筋のコントロールが可能
  • 膀胱直腸障害は残る。
装具なしで歩行可能

2. 脊髄損傷の症状と二次的合併症

受傷直後→脊髄ショック期(損傷部以下の反射消失、回復に1~数週間)

脊柱の骨折・脱臼症状の安定、6~8週間、安静固定

(1) 運動障害

脊髄ショック期

脊髄ショック期 --麻痺域のすべての反射消失または減弱、弛緩性麻痺

脊髄ショック期回復後 → 痙性麻痺

脊髄ショック

(2) 知覚麻痺

感覚麻痺

損傷部以下の領域の知覚障害
(完全損傷では脱失,不完全損傷では鈍麻,過敏,異常知覚)
運動障害と知覚障害のエリアを調べることにより高位診断できる。

(3) 排尿障害

排尿反射中枢は仙髄に存在する

この部分およびこれより上位の損傷で膀胱障害をきたす。

受傷直後は完全な尿閉状態

数週間後には膀胱の反射などが回復してくる。

排尿中枢より上位の損傷(核上性損傷)では排尿反射による排尿可能(自動性膀胱)

中枢および下位の損傷(核性または核下性損傷)では排尿反射は期待できず、手圧による排尿(自律性膀胱)

自動膀胱
自立膀胱

(4) 消化器症状

受傷初期は、麻痺性腸閉塞状態、鼓脹、ときに水様便などの失禁を起こす。

次第に便秘に傾く。

(5) 呼吸障害

例)C7損傷レベルでは、
  1. 吸息
    1. 外肋間筋 肋間神経なので麻痺
    2. 横隔膜 横隔神経(C3.4)なので動く
    → 弱いけれど息を吸うことができる。
  2. 呼息
    1. 内肋間筋 肋間神経なので麻痺
    2. 腹筋など 肋間神経なので麻痺
    3. 肺の弾力、胸郭の重みで、息をはく。
    → 強い呼息はできないが、ある程度、息をはける。
呼吸障害

(6) 自律神経障害

  1. 血管運動障害
  2. 起立性低血圧
  3. 発汗機能の低下
  4. 体温調節障害
  5. 眩暈,動悸,頭痛など

(7) 性機能障害

3. 急性期のリハビリテーション

(1) 良肢位の保持

漁師胃保持、2時間毎の体位変換

(2) 医学的管理

人工呼吸器、排痰補助、持続カテーテル留置等

(3) 理学療法・作業療法

呼吸理学療法、関節可動域訓練、筋力増強訓練、ADL訓練

※受傷部にストレスをかけないように注意すること

4. 回復期のリハビリテーション

(1) 関節可動域訓練・筋力増強訓練

関節可動域訓練、筋力増強訓練(特に残存筋筋力強化)

(2) マット上訓練

寝返り、起き上がり、座位保持、損傷レベルに応じた移動動作等

(3) 移乗動作と車椅子動作

車椅子からベッドへの移乗方法
  1. 前方移乗 ベッドに対し垂直、トランスファーボードを用いて滑らせながら移乗
  2. 側方移乗 ベッドに平行、プッシュアップにより臀部を移動、転落のリスク
その他の車椅子操作
  1. 床面から車椅子への移乗
  2. キャスター挙げ
  3. 段差昇降
  4. 転倒した車椅子を起こす

(4) 歩行動作

損傷レベルに応じて装具や杖を用いて実施

(5) 作業療法

頸髄損傷患者で重要、上肢装具、自助具の活用

5. 家庭・社会復帰