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第2節 歩行の異常

ベストセレクション「異常歩行」

異常歩行は正常範囲を逸脱した歩行で、「跛行(はこう)」ともいう。

1 身体構造上の異常による異常歩行

教科書:1.身体構造上の異常による異常歩行

1)脚長差のある跛行

脚長差が3cm以内であれば
代償によって異常歩行は目立たない。
脚長差が3cmを超えると,
  1. 短い側のつま先立ちで歩く
  2. 立脚期に体幹が短い側に落ちこむ(墜落性跛行)
  3. 長いほうの足を外に分回しながら振り出す(分回し歩行)

2)下肢の関節に拘縮・強直のある跛行

関節の状態 跛行
膝関節屈曲拘縮 30度以内であれば速い歩行時に脚長差のある跛行
30度以上であれば常に脚長差のある跛行
膝関節伸展拘縮 遊脚期に分回し歩行
尖足変形 踵接地のとき、つま先から接地
立脚中期に膝関節の過伸展
下垂足 遊脚期に膝を過度に持ち上げる。
つま先より接地する
踵足変形 踵離地および足尖離地時のけり出しが弱く,速く歩けない

尖足の写真

尖足と下垂足の相違(イメージ図)

3)股関節支持性障害による跛行

跛行の名称 原因 状態
トレンデレンブルグ歩行
(軟性墜落跛行)
  • 内反股
  • 股関節の脱白
  • 中殿筋麻痺
股関節外転支持力が弱くなると
立脚期に骨盤を支えることができなくなり,
  • 反対側の骨盤が落下
  • 体幹は立脚側に弯曲

2 疼痛による異常歩行

教科書:2.疼痛による異常歩行
痛みの原因 跛行のタイプ
疼痛性歩行 患側の体重負荷を避けようとして
  • 体幹を健側に傾け
  • 患側立脚期の時間の単縮
両側の腰背痛 歩幅を短く,やや前屈位でゆっくり歩く
椎間板ヘルニアで片側の腰背痛 健側に傾く
下肢の動脈硬化による血行障害 歩行中に疼痛が生じて歩行できなくなり,しばらく休息すると疼痛が消失して歩行が可能となる

3 神経・筋系の異常による異常歩行

教科書:3.神経・筋系の異常による異常歩行

1)片麻痺の異常歩行

①尖足・内反尖足歩行
②反張膝

→ 反張膝になる

③膝屈曲歩行

→ 膝を曲げたまま歩行

④膝折れ

→ 体重を支えることができず,膝が折れてしまう

⑤はさみ足歩行

→ 遊脚期に下肢を前内側に振り出す → 両大腿部が交叉

⑥分回し歩行

→ 下肢を外側に分回すように振り出す。

⑦伸び上がり歩行

⑥と同じ原因で,患側下肢を振り出すとき,健側の伸び上がりがみられる。

2)失調,基底核障害による異常歩行

①急ぎ足歩行,こきざみ歩行
②失調性歩行
跛行の名称 原因 状態
脊髄性失調歩行 脊髄知覚伝導路の障害 歩幅は不均一で,両足を広げ,左右に動揺しながら歩く。
夜間の歩行が困難てある。
小脳性失調歩行 小脳疾患 歩幅はまったく不規則て,左右に大きく揺れながら歩く。
酔っ払いが歩く姿に似ていることから酩酊歩行

3)筋弱化による異常歩行

跛行の名称 原因 状態
大殿筋歩行 大殿筋麻痺や筋ジストロフィー症など股関節伸展筋力の弱化 骨盤を前に出し,体幹を後方にそらした状態で歩行する。
トレンデレンブルク歩行 中殿筋麻痺や股関節脱白によって股関節外転筋の筋力が弱くなったとき。 患側立脚期において健側骨盤が落下し,体幹を同側に傾けて歩行するか,骨盤の下降を代償するため,体幹を反対に側屈させて歩行する。
あひる歩行 筋ジストロフィー症など両側の中殿筋の弱化 左右両方でトレンデレンブルグ歩行がみられ、左右に体を動揺させながら歩く。
大腿四頭筋麻痩の歩行 大腿四頭筋麻痺 膝折れや反張膝になる。
膝折れを防ぐために大腿の前面を手でおさえて歩く。
鶏歩 前脛骨筋の麻痺(下垂足) 遊脚期に股関節および膝関節を過度に屈曲し,つま先から接地する歩行である。
(もも上げの状態)